前代未聞の「光化門占有」:7日間の使用料は3,000万ウォン
3月16日、ソウルの中心地である光化門広場は、これまでにない緊張感と期待感に包まれています。本日16日に予定されているBTS(防弾少年団)の歴史的なカムバック公演を控え、広場には巨大な特設ステージが姿を現しました。ソウル市の公式発表によると、BTSの所属事務所であるHYBEが今回の公演のために3月16日から22日までの7日間、光化門広場を使用する料金として支払う金額は、約3,000万ウォン(約340万円)強であることが確認されました。光化門広場で特定のアーティストが単独公演を行うのは、広場の再整備後、今回が初めての事例となります。
この「3,000万ウォン」という金額は、ソウルを象徴する場所を1週間にわたって独占的に使用する対価としては、一見すると極めて低く抑えられているように感じられるかもしれません。しかし、これには明確な法的根拠があります。ソウル市関係者の説明によれば、この使用料は「光化門広場の使用及び管理に関する条例」に基づき算出されています。具体的には、使用許可面積1平方メートルあたり、午前6時から午後6時までは1時間につき10ウォン、夜間(午後6時から翌午前6時)は13ウォンという規定が適用されました。広場の面積が1万平方メートルを超える大規模な占有であっても、公的な空間としての性格上、民間施設のような高額な商業賃貸料は発生しない仕組みとなっています。

「世界的なスターが光化門で歌うこと自体が国家的なプロモーションになるのだから、広場の使用料が安いというのは本質的な問題ではない。それ以上に、どれだけ安全に、そして秩序を守って開催できるかが重要だ」(ソウル市内のIT企業に勤める30代男性)
文化財保護とグローバル広報の両立:景福宮・崇礼門の使用料
今回のカムバック公演の舞台は、光化門広場だけにとどまりません。HYBEは今回のパフォーマンスの視覚的な完成度を高めるため、隣接する景福宮(キョンボックン)および崇礼門(スンネムン)の使用および撮影許可も取得しています。国家遺産庁の関係者によると、これらの文化財施設の使用に伴いHYBE側が支払う費用は計6,120万ウォンに上ります。この費用には、撮影のために一般観覧を制限することによる入場料収入の損失補填などが含まれています。結果として、HYBEがソウル市と政府に支払う直接的な施設使用料の総額は、約9,000万ウォン(約1,000万円)規模となります。
特筆すべきは、公演当日である3月16日、景福宮、徳寿宮、国立古宮博物館といった主要な文化施設が終日休館となる点です。これは、BTSのパフォーマンスが単なる音楽イベントの枠を超え、国家的な文化コンテンツとして位置づけられていることを示唆しています。過去にもBTSは景福宮の勤政殿前でパフォーマンスを披露し、韓国の伝統美を世界に知らしめた経緯がありますが、今回は都心の公共空間を完全にシャットダウンしての大規模な試みとなります。政府関係者は「世界中が注目するカムバックの舞台として、韓国の歴史的建造物を最も効果的に活用できる方法を模索した結果」と述べています。
1万人規模の行政力投入:安全管理に注がれる公的リソース
施設使用料として HYBE が支払う金額に対し、ソウル市や政府が今回のイベントを支えるために投入する公的財源や行政コストはその数倍、あるいは数十倍に達すると推測されます。最も大きな焦点となっているのは、安全管理のための人的リソースの投入です。当局は、公演当日に向けて警察官約6,700名、ソウル市・自治体・消防当局の職員約3,400名など、計1万人を超える行政人員を現場に配置する計画を立てています。これは、大規模な祝祭や国際会議に匹敵する、あるいはそれを上回る規模の警備体制です。
この莫大な人員配置の背景には、光化門という場所が持つ特殊性があります。四方を主要幹線道路に囲まれ、地下鉄駅が直結しているこのエリアに、世界中から数万、数十万人のファンが殺到した場合、事故のリスクは極めて高くなります。当局は、群衆雪崩の防止や交通整理、緊急時の動線確保のために、数日前からシミュレーションを繰り返してきました。行政側がこれほどの負担を負うことについて、一部からは「民間企業のイベントに過剰な公的資金が投じられているのではないか」との批判の声も上がっていますが、ソウル市は「市民の安全を確保することは行政の最優先義務であり、事故を未然に防ぐための不可欠な措置である」と強調しています。
「BTSのファンとして、これほど大規模なサポートがあるのは誇らしいけれど、一方で税金が使われているという批判が出るのも理解できる。だからこそ、私たちARMYもゴミ拾いや秩序維持で、市民としての責任を果たさなければならないと感じている」(SNS上のファンコミュニティの投稿より)
市民生活への影響と「社会的費用」の議論
今回の公演準備が進む中で、可視化されない「社会的費用」についても議論が巻き起こっています。警察は設営が始まった3月16日から、光化門広場周辺での市民団体による集会やデモを制限、あるいは中止するよう要請しました。これは表現の自由との兼ね合いでデリケートな問題を含んでいますが、安全確保という名目のもとに、事実上の「集会禁止区域」が形成されている状態です。また、周辺ビルの出入り制限や、公共交通機関、公共自転車(タルンイ)の利用制限、周辺道路の通行止めなど、一般市民の日常生活に対する影響は避けられません。
特に物流や通勤への影響を懸念する声が多く聞かれます。光化門周辺は多くの企業が本社を構えるビジネス街でもあり、平日の設営期間中も混乱が生じました。市当局は「周辺の混雑状況をリアルタイムで案内し、迂回を促している」としていますが、16日の本公演当日にはさらなる混乱が予想されます。こうしたコストは、直接的な予算として計上されることはありませんが、ソウルという都市が一時的にその機能を一部停止することによって生じる、目に見えない損失と言えるでしょう。これらをBTSというブランドがもたらす経済効果や都市ブランドの向上と天秤にかけたとき、どちらが重いのかという問いが投げかけられています。
公共空間の私的利用か、国家的な文化イベントか
光化門広場は、条例において「誰にでも開かれた公共の空間」と定義されています。市長には、市民が平和に活動できるよう広場環境を整え、健全な余暇・文化活動を支援する義務があります。今回のBTS公演を巡る議論の核心は、この「公共性」の解釈にあります。世界的なアーティストによる公演が、市民の文化的な享受に資する「公的なイベント」と見なされるのか、あるいは一企業の営利活動を支援する「私的な利用」に過ぎないのかという点です。
ソウル市の立場は明確です。今回のイベントを、コロナ禍以降の観光活性化と、ソウルという都市の魅力を世界に発信する絶好の機会と捉えています。実際に、今回の公演に合わせて入国した外国人観光客による宿泊、飲食、ショッピングなどの直接的な経済波及効果は、数千億ウォンに達すると試算されています。一方で、広場の使用料が安価に設定されているのは、あくまで「市民のための空間」だからであり、特定の企業に特恵を与えているわけではないという論理です。しかし、今後他のアーティストや企業が同様の規模での使用を希望した場合、どのような基準で許可を出すのかという課題が残ります。
「光化門が紫に染まるのを見るのは楽しみだけど、これが前例となって、どんどん企業のイベントで広場が埋まってしまうのは困る。公共の場所としてのバランスをどう保つのか、市にはしっかりとした基準を作ってほしい」(光化門近くでカフェを経営する40代女性)
16日の本公演に向けた最終準備状況
現在、光化門広場周辺には、BTSの象徴である紫色のライトアップが施され、ムードは最高潮に達しています。HYBE側も、安全管理のために独自の警備員を大量に投入し、行政当局と密接に連携する体制を整えています。公演当日の16日は、周辺の地下鉄駅(光化門駅、市庁駅、景福宮駅)において、混雑状況に応じた無停車通過の可能性も示唆されており、訪問を予定しているファンや市民には、事前の情報確認が強く推奨されています。
今回の光化門カムバック公演は、K-POPというジャンルが、一国の首都の機能を一時的に変容させるほどの力を持つに至ったことを象徴する出来事となるでしょう。3,000万ウォンの使用料、1万人の警備員、そして閉鎖される王宮。これらの数字や事実は、今夜、BTSがステージに上がった瞬間にどのような意味を持つことになるのでしょうか。世界中の視線が、ソウルの中心、光化門へと注がれています。SYNC SEOULでは、本日の公演の模様を現地から引き続き詳細にレポートする予定です。



