20年間で半減した「ソウルフード」の支持率
韓国の食文化を象徴するメニューの一つであるテンジャンチゲ(韓国味噌チゲ)が、かつてない危機に直面しています。最近、韓国のオンラインコミュニティ「theqoo」で話題となったデータによると、過去20年間でテンジャンチゲの支持率は23%からわずか10%へと急落しました。この投稿は2026年3月現在、63,000回以上の閲覧数を記録し、460件を超えるコメントが寄せられるなど、国民的な関心を集めています。データが示すこの13ポイントの喪失は、単なる好みの変化ではなく、韓国社会の構造的な変容を反映していると言えるでしょう。
統計的に見ると、2000年代初頭のテンジャンチゲは「お母さんの味」の代名詞であり、外食でも家庭料理でも不動の1位を誇っていました。しかし、2026年の現在、若年層を中心とした「テンジャン離れ」は加速しています。データアナリストの視点からこの数字を分析すると、特に10代から30代にかけての支持率低下が顕著であり、これが全体の数字を押し下げている主要因であることが分かります。かつての「23%」という数字は、全世代が均等に支持していた結果でしたが、現在の「10%」は、主に高年齢層によって支えられている危うい数字なのです。
「昔は毎日食べても飽きなかったけど、最近は外食でわざわざ選ぶことはない。家で作るにしても、匂いが部屋に残るのが気になってしまう。美味しいのは分かっているんだけどね。」(theqoo ユーザー ID: k-food_lover)

嗅覚的障壁と都市型ライフスタイルの変化
なぜここまで支持率が低下したのか。その物理的な要因として真っ先に挙げられるのが「匂い」の問題です。韓国の住環境は、この20年で急速に高層マンション(アパート)中心へと移行しました。密閉性の高い現代的な住空間において、テンジャンを煮出す際に発生する独特の強い香りは、衣類や家具に吸着しやすく、管理が難しい要素となっています。特に、ミニマリズムや清潔感を重視するZ世代にとって、この「香りの残留」は食欲を上回るデメリットとして認識されています。
また、1人世帯の急増も無視できません。テンジャンチゲは本来、様々な野菜や豆腐、出汁を準備する必要があり、少量を作るには非常に効率の悪い料理です。コンビニの弁当やデリバリーアプリが普及した現代において、わざわざ「匂いのリスク」を冒してまで自炊するインセンティブが低下しているのです。データによると、デリバリーアプリ内でのテンジャンチゲの注文比率は、キムチチゲやマーラータン(麻辣燙)と比較して、2025年比でさらに8%減少しています。これは、テンジャンチゲが「デリバリーで頼むほどではないが、家で作るには面倒な料理」という中途半端な位置付けに追いやられていることを示唆しています。
「映え」ない茶色の美学:SNS時代のビジュアル敗北
デジタル・ネイティブ世代の食の選択基準において、視覚的なインパクト、いわゆる「インスタ映え」は極めて重要な指標です。ここでテンジャンチゲは、構造的な弱点を抱えています。その深い茶色のビジュアルは、健康と伝統の象徴ではあるものの、彩り豊かなサラダボウルや、真っ赤なスープが刺激的なマーラータン、あるいはチーズがとろけるフュージョン料理と比較すると、どうしても地味に見えてしまいます。
SNS上での投稿数を比較すると、その差は歴然です。2025年から2026年にかけてのInstagram(韓国国内)でのハッシュタグ投稿数を分析すると、#マーラータン や #ヨプトッ(激辛トッポッキ)が数十万件単位で伸びているのに対し、#テンジャンチゲ は横ばい、あるいは減少傾向にあります。若者にとって、食事は単なる栄養摂取ではなく、自己表現の手段です。「地味な茶色のスープ」を投稿することに価値を見出せない層が増えていることが、支持率10%という数字の裏側に隠されています。
「友達とご飯に行く時に『テンジャンチゲ食べよう』とは絶対にならない。せっかく外食するなら、もっと派手で、写真に撮って映えるものがいい。テンジャンは実家で食べるもの、という認識。」(theqoo ユーザー ID: seoul_genz)
インナービューティーの定義変化:発酵食品からサプリメントへ
かつてテンジャンは、韓国を代表する「健康食品」であり、内側からの美しさを支えるインナービューティーの源泉でした。発酵食品としての優れた栄養価は今も変わりませんが、消費者の「健康へのアプローチ」が変化しています。現代の韓国女性や美意識の高い層は、発酵食品から乳酸菌を摂取するよりも、高濃度のプロバイオティクス・サプリメントや、手軽なデトックスジュースを好む傾向にあります。
この変化は、塩分に対する懸念とも結びついています。健康志向の高まりにより、塩分の高いチゲ類全般が敬遠される中で、テンジャンチゲはその直撃を受けています。「健康のために食べる」という大義名分が、サプリメントや低塩分ダイエットに取って代わられた結果、テンジャンチゲに残されたのは「伝統的だが塩分が気になる古い料理」というネガティブなレッテルだけになってしまったのです。数字は残酷です。健康志向を自認する層のテンジャンチゲ支持率は、過去5年で15%から7%へと半減しています。

市場の反応:レストランが模索する「テンジャン2.0」
この危機的状況に対し、外食産業も手をこまねいているわけではありません。一部の高級レストランやトレンディなエリア(聖水洞や漢南洞)では、テンジャンチゲを現代的に再解釈する動きが見られます。例えば、従来の土鍋ではなく、洗練された洋食器で提供したり、トリュフオイルやウニをトッピングした「プレミアム・テンジャン」が登場しています。これらは、支持率低下に対する業界の必死の抵抗とも言えます。
しかし、こうしたプレミアム化が全体の支持率を回復させる特効薬になるかは不透明です。データが示すのは、あくまで「日常食としてのテンジャンチゲ」の崩壊だからです。特別な日に食べる高級なテンジャン料理は、週に何度も食卓に上ったかつての姿とは本質的に異なります。レストラン側も、原価率の上昇と若者の嗜好変化の間で苦しんでいます。ある飲食チェーンのデータでは、サイドメニューとしてのテンジャンチゲの注文率が、2024年比で12%低下し、代わりに冷麺やチーズポテトの注文が増えているという報告もあります。
データが予測する2030年の食卓
現在のトレンドが継続した場合、2030年にはテンジャンチゲの支持率は5%を下回る可能性があると予測されます。これは「国民食」という称号を完全に返上することを意味します。しかし、これは必ずしもテンジャンが消滅することを意味するわけではありません。むしろ、ピザのトッピングやパスタソースの隠し味といった、より断片化された「調味料」としての生存戦略にシフトしていくでしょう。
分析の結果、テンジャンチゲの衰退は、韓国社会の「個人化」「都市化」「視覚重視」の3つの流れが合致した結果であることが分かりました。伝統を維持するためには、単なるノスタルジーに訴えるのではなく、現代のライフスタイルに適合した新しい「形態」の提案が不可欠です。例えば、匂いを抑えたフリーズドライ製品や、ビジュアルを劇的に改善したミールキットなどがその鍵を握るかもしれません。
「結局、時代の流れなんだと思う。私たちの親世代にとってのソウルフードが、私たちにとってもそうである必要はない。でも、たまにふっとあの匂いが恋しくなる時があるのも事実なんだよね。」(theqoo ユーザー ID: nostalgic_blue)
数字は嘘をつきません。23%から10%への転落は、一つの時代の終わりを告げる鐘の音です。しかし、その10%が「誰が、なぜ支持し続けているのか」を深く掘り下げることで、次世代のK-FOODが進むべき道が見えてくるはずです。Kimの分析によれば、今後数年は「伝統の解体と再構築」が食品業界の主要テーマとなるでしょう。テンジャンチゲが再び20%台の支持を取り戻すことは統計的に困難ですが、形を変えて生き残る可能性は十分にあります。
最後に注目すべき点は、この議論がこれほどまでに盛り上がっていること自体、人々の中にまだテンジャンに対する「愛憎混じった関心」が残っている証拠だということです。関心が完全に消え去った時こそが、本当の終焉です。460件のコメントに込められた熱量は、数字以上の何かを語っているのかもしれません。



